結婚して20数年、嫁入り道具として持ってきた私のドレッサー。


ライティングデスクタイプの木製のもので、鏡は、蓋である机の天板の裏に固定されているタイプ。



結婚当初に住んでいた部屋は手狭で、自分の個室なんてなかった。


独身のころの実家・個室住まいから、隔てるもののない夫婦二人の暮らしの中、ライティングデスク兼ドレッサーの小さな机が、私が個人に戻ることができる唯一の場所だった。



引っ越しする数年前に、その蓋を開け閉めするアームが壊れ、主人が応急措置をしてくれたが、それから蓋の開け閉めは、ほぼできなくなった。

こうなるとライティングデスクの機能は失われ、私も、そこで自分のちょっとした事務作業をすることもなくなった。



さらに新居に引っ越して、PC書斎を作ってから、自分の世界が、ほんの少しだけ広がった。


けれど、ドレッサーは日々の通勤の身だしなみのために酷使を続け、気づけば化粧品の油汚れが染みついてしまっていた。



そんなある日のこと。
主人が急に私に尋ねてきた。


「ドレッサー買い替える?」


そんな珍しいことをなぜ?
すると、意外な答えが返ってきた。


「前から欲しいと言ってたし、仕事を辞めたいって言っているから、その前に買い替えてあげようと思って」

結婚当初、私と一緒にやってきた、ライティングデスクのドレッサー。
その役目は終わり、新たに鏡としての役割を担う、新しいドレッサーが欲しくなった。

でも、家具店に行ってみたり、インターネットで探してみたりしたが、気に入るものがなく、しばらくあきらめていたのだ。



どんな鏡がいいだろう…。
そうだ。


国内外で、少し大きめのホテルに泊まると、その部屋にはシンプルだけど鏡が大きく、そう、まるで芸能人がメイクするときのようなライト付きのドレッサーがよく置かれている。

うん、アラフィフの私には、しっかり顔の表情が写ってメイクがしやすい、そんな大きな鏡のドレッサーがいい。


そう思いながら再度インターネットで検索すると、「女優ドレッサー」というフレーズが検索に引っ掛かった。

「これがいい!まさに頭の中に描いていたイメージのドレッサーだよ!」

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私のその言葉に、珍しく主人が業者に問いあわせをし、本体の色や椅子の座面など細かな調整と、注文をすべてやってくれた。

彼にしてみれば、仕事や体調不良で疲れ、表情がさえなくなった妻に、新しいドレッサーを使って少しでも元気を出してもらいたいと、そう思ったのかもしれない。



注文してから数週間、我が家に新しいドレッサーがやってきた。



初代ドレッサーから新ドレッサーへ、化粧品や小物、アクセサリーなどの移し替えには時間がかかったけれど、これも断捨離の一つ。


いま自分に必要な化粧品は何だろう、と考えながら、少しずつ入れ替えていった。



そして退職した今、毎日、私は自分の顔を、このドレッサーを見ながら完成させていく。
これからの人生後半、このドレッサーは私だけの小宇宙。
大事にしたい。

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画像:Canva  
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